慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)創設30周年に合わせて刊行されたシリーズ「総合政策学をひらく」の一冊。SFC教員陣による座談会及び執筆教員ごとの分野の論考をオムニバス形式で取りまとめてある。
座談会
問題発見・問題解決をキーコンセプトに誕生したSFCは私の出身であるのだが、以前より実学思考の強いものであった。(ここで指す実学は福沢諭吉先生の訳したサイエンスの意味。実証的に真理を解明し問題を解決していく学問姿勢)。しかし30年という時代を経てキーコンセプトを保つためにも変わり続け、そしてフェーズを重ねて進化をしなければならない。その葛藤が座談会からも伝わってくる。特に小熊英二先生の指摘されているこの2点は大きな課題でもあるだろう。
・多くの研究領域の研究者が共存するSFCにおいて「対象オリエンテッド」か「学問体系の発展オリエンテッド」かが分かれる。いずれかに統一しなければ学部として積み上げを図るのは難しいのでは?
・アカデミズムにおいて、60-90年代はパラダイムシフトや構造主義、現象学のトレンドであった。しかし2000年代以降古典的認識論に基づく方法論を洗練させ、既存の学問体系を発展させる潮流となっている。これは数値化されたデータがサンプル可能になったことや貢献を示さなければ研究職の就職が難しくなってきたことに起因する。この既存学問の方法論の洗練が強くなってくる潮流において学際研究のSFCは厳しい立場にある。
実践知の学問の方法論(国領二郎先生)
オムニバスはどれも読む価値があるものである。その中で国領先生の論考は総合政策学を理解する上で重要なものである。というのも総合政策学の博士設立の検討を寄稿している。
総合政策学を定義する上で必要となる要件は下記の3点である。
1.現代社会の様々な問題を把握、分析だけでなく解決していくことを基本的同期とする新しい学問であること。…分離融合の学祭的な研究であること。
2.実践知の学問であること
3.学術的な厳格さを十分に持つこと
1に関しては従前より標榜している内容である。設計科学であること/文理融合であること/ディシプリンの壁を壊すことを紹介している。設計科学に関しては吉田民人東京大学名誉教授による認識科学と設計科学を紹介している。世界を認識するための学問である認識科学に対し、設計科学は世界を設計するための科学である。総合政策学は設計科学であるべきでとしている。
総合政策学を実践知の学問として確立するために厳格さを保たなければならない。従来の社会科学は現場と距離を保ってきた。客観性を保つためでもあるが、政治的に利用されることを避けるためでもある。また確証バイアスに囚われることもある。しかし問題発見・問題解決をキーコンセプトに置くだけに現場に参加をしていかなければならない。それだけにrigorousであらなければならない。
厳格さを保つために先行する手続きやリサーチを紹介している。
デザインアプローチ
デザインサイエンスのアプローチ
1.説くべき課題の認識
2.ソリューションの概念的定式化
3.ソリューションの設計
4.プロトタイプの構築
5.テスト・評価
一般認識科学のアプローチ
1.高度化をはかりたい理論体系の特定
2.既存研究において改名されていないテーマと実証フィールドの探索
3.理論から演繹された仮説の導出
4.仮説の検証
5.理論的貢献の検討
アクションリサーチ
自身がアクションの当事者として活動を行う中から血を抽出するものor他者が行なっているアクションを観察しながら行うもの。
アブダクション
deduction(演繹的推論)とinduction(帰納法的推論)のそれぞれの要素を採用した推論方法である。帰納法では天動説的な結論に陥る恐れがあり、演繹法は前提とした理論パラダイムに囚われてしまう。アブダクションは両方の推論をうまく取り入れる。総合政策学においては下記の手続きを取る。
ソリューションの現場での適用→ソリューションの帰結の帰納的分析による新たな仮説の構築→仮説の演繹的展開によるソリューションモデルの構築→(初めに戻る)

