SEとしての経験を経て筑波大学大学院にて博士号(社会学)を取得された宮地弘子氏による新書。
デスマーチと言うと最近で言えばみずほのシステム開発案件が最も話題でしょうか。システム開発並びにソフトウェア開発は無理難題な要件で開発を迫られることを”デスマーチ(死の行進)”と言います。
著者のインタビュー調査をした結果、現場での”デスマーチ”は
1.期間が定かでない▷度重なる遅延のため
2.何人のエンジニアが関わっているのかわからない▷度重なる増員でどこまでが自身のプロジェクトか不明
3.予算そのものがわからない▷そもそも開発者には知らされていない
4.そもそもの要求がなんだったのかわからない▷度重なる仕様変更のため
プロマネいるの??と思いたくなるような現場の声…驚きです。
よくデスマーチの要因としてはウォーターフォール開発という開発手法が問題なのかと言われたりします。ですがそもそもとして趣味の延長上から成長してきたエンジニア文化が要因でないかと著者は提起していました。
メインフレーム時代のソフトウェア開発はハードウェアメーカー(IBMなど)による管理的生産方法の元、正確性を重視した開発が行われてきました。ところがダウンサイジングの波により、小型コンピュータが家庭・個人・企業に広く普及し、ソフトウェアに求められる需要が拡大しました。そこで台頭してきたのが始め当時の多くのベンチャーです。これは日本を含めた世界的な波でした。彼らの強みは趣味の延長上で楽しさを感じながら開発する、腕利きのエンジニア達です。彼らは現在のITの成長に大きく貢献をしました。
ですが、彼らはマニアであり自身のスキルに高い自尊心を有していました。その結果、他人を讃えることを良しとしない、他人の足を引っ張るなどもってのほかという、個人主義的な開発風土が醸成されたとされています。
しかしながらIT黎明期に活躍した20代の若者も初老と呼ばれる世代になり、昼夜働くというのは難しいです。これは体力の衰え・プライベートでも様々なライフイベント(結婚、親の介護など)が生じるライフステージへの移行によるものです。また巨大産業化し、昔のようにマニアのような人材だけがいるような業界ではありません。そのためこのような個人主義的な開発風土の是正が求められます。
一定の実績がない企業と商取引をしない商慣習がある日本のため、ベンチャーも必然的にITゼネコンの請負として参加せざるを得なく、結果としてウォーターフォールが採用されているという現実もあります。
簡単な要約になるため、書ききれていない著者による主張が記されています。システム開発・ソフトウェア開発は非常に難解なもののように捉えられますが、わかりやすい概要も説明されています。SE出身で社会学という多くの人との接点を求められる学問を学ばれた著者だからこそでしょう。
ブラック企業が社会問題化している昨今ですが、IT業界のデスマーチも根深いものです。非IT業界の人にこそ手を取ってもらい、社会問題として認識されていってもらいたいと願ってしまう、そんな本書でした。
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