作家・木皿泉による小説。

 

木皿泉さん….さん付けでいいのかな??
というのもこちらは和泉務氏と妻鹿年季子氏、ご夫婦で作家されており、2人合わせての共同ペンネームだ。
だからいつも人にオススメするときなんか呼称にとても悩む。

それはさておき、彼らの名前は聞いたことがある人は少ないかも知れない。
ただ彼らの世界観をドラマを介して浸ったことがある人は多いはず。
彼らの代表作は「野ブタ。をプロデュース」や「セクシーボイスアンドロボ」、「Q10」などのドラマ脚本だ。いずれも登場人物たちの日常に少しの非日常をもたらし、示唆的な教訓を僕らにさっと心に残して毎回幕を閉じる、そんな世界観だ。
近年では脚本にとどまらず、小説の執筆も行っている。
前作の「昨夜のカレー、明日のパン」は本屋大賞にノミネートされ2位となり自身の脚本でドラマ化もされた。

そんな彼らの新作が本作「さざなみのよる」。
プロットでいうと、主人公ナスミとの生前の関わり・死を介し、登場人物それぞれに心境の変化をもたらす、そんな筋書きだ。
本編は14章構造になっており、ナスミは第1章で死を遂げる。
ただ同時進行的に章毎に異なった登場人物に焦点をあて、その人物が主体となって物語が進む。

1章では主人公ナスミが死に向かうまでの悲痛、そして弱さが滲み出ている。2章以降、1章の印象と異なりナスミの強さが全面に出ている。
弱いだけでなく、強いだけでもなく、弱さも強さも備えた人間らしい、人間ナスミ。
両面を描いていたからだろうか、ナスミに血が通い、読了後に生き生きとしたナスミが脳裏に残った。そして思わず誰をナスミにキャスティングしようかということまで考えていた。ちなみに僕は満島ひかりさんに演じて欲しいとか考えていた。

さて、タイトルの”さざなみのよる”だけどもこのキーワードには決して触れられていない。ただ明確なのはこのさざなみはナスミが息をたったときに生じたものだということ。第1章で触れられているのだが、いのちの終わりを井戸に投じられた小石が長い長い落下時間を経て水面に着いた時になぞらえている。
ナスミの命が水面に達し、生じた波紋。それが多くの人々に波打って伝わっていくことをタイトルにしたのだろう。

読み終えた後にほっこりとする、木皿和泉の世界観満載の作品。
また誰かに勧めたい。