学生時代のインターン先の先輩から「アートディレクションは現在のようなコンセプト起点になる以前って、作家性が強かったんだ。学生時代に最前線でいた人がサイトウマコトって人でさ…」
なんて話を聞いてずっと気になっていたサイトウマコトさん。
元々は商業デザイナーとして世界的に高く評価されていたサイトウ氏。
そんな彼は北九州市出身。彼の個展が北九州市立美術館にて行われていたので車すっ飛ばして行ってみた。

感想は有無を言わせずカッコイイ。





昨今ではコンセプトを評価する現代アートやら課題解決手法としてデザイン人気がすごい。でもそれらの作品ってそれを伝えるためにコンセプトにエッジを立たせるために、どこか表現が謙虚になっているように思える。
広告表現なんてなおのこと。
ファインアートだからこそ、突き抜けれる世界をサイトウ氏は楽しんでいると思う。
サイトウマコト氏が巻き起こした、エッジのある広告表現のトレンド。それ以前には写真とコピーを添えるだけの表現ノングラフィックという手法が流行っていた。そんな時代に対してのアンチテーゼとも言えるし、あるいはだからこそ人々を惹きつけたのかもしれない(ちなみにノングラフィック以前は過剰なグラフィック表現が流行っていたそうな….時代は繰り返されるって感じ)

ノングラフィックを代表する作品。
彼の作品の特徴はグラフィックでは馴染みのある網点から着想を得ている。間近で作品を眺めるとその緻密な筆致に圧巻する。



アナログ表現で言えばドットだけども、模擬デジタル表現を意識した氏の作品ということもありビットマップデータも想起する。
ちなみに彼の制作プロセスはデザインソフトでモチーフを様々な網点のデータに加工する。それらを重ね、組み合わせ、設計図を作成する。
その後キャンバスに下絵を描き、限定した油絵の具8色(グリーン、ブルー、濃いブルー、ピンク、赤、黄色、そして白、黒)を重ねるそうだ。
ちなみに最近脚光を浴びているアーティスト・武田鉄平氏はサイトウマコト氏の事務所に在籍していたそう。DTPからのペインティングという表現はトレンドになりそうな予感。

気に入ったのは本展のメインビジュアルにも採用されているNeural Network
本人が表現の中で人工知能トレンドに対しての危惧してるって前情報の上で眺めていた連作だ。
並べて見れば人工知能が大量の人物写真を画像認識している過程のようにも思える。
また、いずれかの1枚に近づいて見れば、人物の存在が消え、ただの緻密な点にしか見えない。まるで自身が人工知能として人物を認識するプロセスにいるかのような体験をする。
そう言えば点画は脳にもとても面白い体験らしい。
点の集合体と認識するとき、そしてひとつのモチーフを認識するときでは脳の反応するところが違うらしい。

本展と合わせてサイトウマコト氏の商業デザイナー時代の作品展が行われている。これもまた凄まじかった。



ここまで見応えのある展覧会だったので公式図録を購入。
装丁は日本を代表するアートディレクター・葛西薫氏によるもの。

図録で見直せば興奮は蘇るものの、やはりあの油絵の積層や迫力のある巨大なキャンパスで観る本物はやっぱりいいなとつくづく思う。