「人間活動における理性(著者:ハーバート・A・サイモン 訳:山形浩生)」を読んだって話。
1982年に開講されたスタンフォード大学ハリー・キャンプ記念講座でのハーバート・A・サイモン博士による講演録。元々は「意思決定と合理性」という邦題で翻訳されている。
それを山形浩生氏が再訳されたのが本著である。下記URLにて無料で公開されているものだ。(山形さん、太っ腹!)
https://cruel.org/books/simonrationality/simonrationality.pdf
ハーバート・A・サイモン博士は意思決定の研究に尽力し、その影響は多岐にわたる。
政治学・認知心理学・経営学・情報科学など分野を横断し、ノーベル経済学賞も受賞している。
網羅した意思決定に関する考察が束ねられている本稿。
人間の合理性について生物学から政治学、経済学など多様な観点から論じられている。
第1章において、まず人間はどのように合理性を判断をしているかという考え方について語る。SEU理論を包含した定型化された意思決定プロセスの否定。そして限定合理性に基づく行動主義的意思決定(人間は多くの行動パターンを計算しているのではなく、数パターンの中から選択して行動しているパターン)と直感プロセスモデルのハイブリッドモデルの可能性。
第2章ではダーウィン生物進化論を考察し、合理性への転用を試みている。ダーウィンモデルをラマルク主義的な文化的形質(社会の形成・意思決定プロセス)に全面応用することは不可能なものの、\”弱い利他主義\”という観点は大いに転用できる可能性を説いている。
キーワードは弱い利他主義。共通する便益を得られる生物種が閉ざされた空間で共存する生物種も存在し、彼らは開明的に長い時間軸での利他的行動を行う。
弱い利他主義を考察する上で必要なことは血縁と構造家デームだ。血縁は血縁でいうと1親等程度の関係。それに対し構造家デームは同じ個体群において局所的個体群が形成され、そこで共通の利益を享受する。
では人間社会において具体的に弱い利他主義を適用するには何が必要なのか。ズバリ報酬だ。
1.行動により他者の利他的行動を賞賛する傾向
2.罪悪感や恥により、他人が表明した章さんまたは嫌悪に対して反応する傾向
3.利他性に対して褒めるだけでなく、繁殖増加の機会または責任で報いること
第3章では経済面・政治面などの制度的合理性の限界に触れている。
政治においての観点はトレンドによる注目政策の移ろいや局所的な絶対的政治関心を取りまとめ、市民全体に対して同じように共助を提供できる政策が決定できないことに触れている。正しく市民が意思決定に参加するにはそれぞれのリテラシーが求められる。しかしながらそれも難しいため専門家の存在及び活用の必然性に及ぶ。
本著は第二章がとりわけ充実している。
既存の翻訳は経営学者によるもの。もしかしたら組織論における意思決定を軸にした翻訳になっており、違和感があり山形氏は再度翻訳したのやもしれない。既存の翻訳も手に取らなければなぁ。